| 博奕打ち 総長賭博 |
| 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫 撮影:山岸長樹 音楽:津島利章 美術:富田次郎 出演:鶴田浩二・藤 純子・若山富三郎 金子信雄・名和宏・曾我廼家明蝶 桜町弘子 |
| 昭和9年の東京・江東地区。軍部と右翼が大陸への進出を画策していた頃、ある右翼の大物が、東京の博徒・天竜一家を大陸進出の手先に使おうと打診してきたが、総長は博奕打ちには博奕打ちの分というものがあると言って断わった。しかし、総長はその場で脳溢血で倒れて再起不能となり、跡目相続を決めなければならなくなる。 |
| 総長の弟分の仙波多三郎(金子信雄)は、他の親分衆を動かし、総長の跡目におとなしい石戸組組長・石戸多三郎(名和宏)をすえることによって一家を右翼に売り渡そうと画策した。誰の目にも、跡目は一の乾分の中井組組長・中井信次郎(鶴田浩二)と思われたのに、中井が、自分は関西から流れてきた人間だからと辞退すると、さっさと石戸の跡目襲名が親分衆たちの合議で決定した。 |
| 中井は、自分は遠慮して、間もなく刑務所から出てくる兄弟分の松田鉄男(若山富三郎)に襲名してもらいたいと思っていたので心外だったが、親分衆の決定にはそむけない。 はたせるかな、出所してきた松田は、この決定は承知できない、と言い張った。石戸なぞ自分たちの弟分にすぎない。いまさらそれを親分と仰ぐことはできない、という。 仙波はあくまでも反対する松田を破門にし、中井に殺させる……。 松田も石戸も悪い奴ではない。しかし、右翼が博奕打ちを手兵にしようとする時代の大きな流れのなかで、視野の狭い彼らは互いに対立させられて争わされることになる。やくざらしく意地に生きようとすればするほど、その争いは深刻で悲愴なものになる。賢明な中井だけはその真相を見通しているが、やくざの義理に生きるかぎり、勝手なふるまいはできないし、最愛の弟分を自分の手で刺さなければ自分の男をたてるこ ともできないというのっぴきならない立場にまで追い込まれる。ふつうの人間にとってはバカバカしいきわみかもしれないが、本人たちにとっては大真面目な人生のぎりぎりの大問題である。その意地と掟の大問題を大真面目なままに描ききったことから、この作品はドラマとして稀に見る格調高いものになったのである。 壮麗なまでに様式化された画面の中に、悲劇的な男女の相剋が、一分の隙もなく刻み込まれた東映任侠映画の最高傑作である。ラスト、中井は自分の叔父貴で、すべての元兇である仙波に刃を向け“俺はただのケチな人殺しなんだ”と刺し殺す。 鶴田浩二、一世一代の名演技であった。 (佐藤忠男著 「日本映画300」(朝日文庫) より) |