緋牡丹博徒シリーズ

鶴田浩二、高倉健と並ぶ女任侠スターである藤純子の代表的な任侠シリーズで、1968年の第1作「耕牡丹博徒」から1972年の「同・仁義通します」まで全8本が作られた。緋牡丹の刺青を背負った女ヤクザ“緋牡丹のお竜”が、女ながら義理と人情のしがらみの中に生き、不正には身を持って立ち向かっていくというのが通常のパターンである。藤純子のきりっとしたなかにも女らしさを秘めた物腰が、実に魅力的である。
若山富三郎扮する熊虎親分がコメディ・リリーフ的に登場し、鶴田浩二・高倉健・菅原文太らのスターが交互に出演して主人公を盛り立てる。シリーズ全8作はいずれも高い水準を保っているが、加藤泰監督による第3作(花札勝負)、第6作(お竜参上)、第7作(お命頂きます)が群を抜き、特に第6作は、彼の演出がすみずみまで行き届いたシリーズ最高作で、藤純子も最高に美しい。藤の引退と同時にこの傑作シリーズは終わりをつげる。(藤純子は、1989年富司純子で再デビュー)

シリーズ第3作
緋牡丹博徒
花札勝負
昭和44年(1969年) 東映京都

原案:石本久吉
監督:加藤 泰
脚本:鈴木則文・鳥居元宏
撮影:古谷 伸
音楽:渡辺岳夫
美術:富田治郎


出演:藤 純子・高倉 健・若山富三郎
    嵐寛寿郎・待田京介・藤山寛美
    清川虹子・小池朝雄・柴田美保子
    沢 淑子・古城門昌美・石山 律・
    汐路 賞
    
女剣戟映画である。女優に剣を持たせてチヤンバラをやらせるというのは、古くから、映画では鈴木澄子や伏見直江、大衆演劇では浅香光代などのスターがいて、時代劇のひとつの分野になっていたが、女が男を相手に凄んでみせる面白さとか、立回りのとき裾が乱れるお色気とかいった特殊な興味をひくものだと言われ、一種の見世物以上のものだとは認められていなかった。この女剣戟に、あっと驚くほど美しい様式性と幻想的な情感を盛り込んだのが、藤純子主演の「緋牡丹博徒」シリーズ、「女渡世人」シリーズである。とくに「緋牡丹博徒」シリーズ中、加藤泰が監督した「花札勝負」「お竜参上」「お命戴きます」などは、歌舞伎の舞台か浮世絵版画のような日本的様式美の極致であった。

藤純子の演じる女やくざは、緋牡丹の刺青が背中にあるので人呼んで“緋牡丹のお竜”。
熊本は五木の出身で本名は矢野竜子。父親は矢野一家の親分だったのだが、悪い奴らに殺されて一家は解散。お竜は旅に出て、父の敵を討ったり、悪い奴と対決したり、行く先々で出会った侠客たちとの心の通じ合いに充ち足りるものを感じたりで、全8作のシリーズが出来ている。なかで代表作と目されるのがこの「緋牡丹博徒 花札勝負」である。
弱きを助け強きを挫くで、弱いやくざ一家を助けて金原組という強欲な一家と命のやりとりをすることになる。頼もしい味方は高倉健の旅人、嬉しいコメディ・リリーフは若山富三郎の熊虎という陽気な親分がやってくれる。

やくざ映画には、チンビラの兇暴な暴れぶりを主軸にしたギャング映画調のものもあるが、主流をなす東映の任侠ものは、極端に洗練された折目正しい動作をする博徒たちの、絵にかいたような美しい動きや粋な表情、渋くきまったポーズ、などといった現実にはまったくあり得ない絵空事の美しさを愉しむものである。その意味で、藤純子のような純日
本的な美女が、あたかもテンポを早めて激しい動きも取り入れた日本舞踊のような見事な裾さばきで賭場の壷を振り、仁義をきり、嘆呵をきり、日本刀を振りまわすという趣向は、任侠映画の粋をあつめたようなものになった。自己犠牲に徹したヒロインやヒーローたちのいさぎよい生き方、いさぎよい言葉、いさぎよい眼の光も日本人の泣きどころである。そして、それらの要素のすべてにわたってもっともすぐれた表現を見せた監督の一人が加藤であった。

                        (佐藤忠男著 「日本映画300」(朝日文庫) より)

シリーズ第6作
緋牡丹博徒
お竜参上
昭和45年(1970年) 東映京都
監督:加藤 泰
脚本:加藤 泰・鈴木則文
撮影:赤塚 滋
音楽:斉藤一郎
美術:井川徳道


出演:藤 純子・菅原文太・若山富三郎
    嵐寛寿郎・阿部 徹・長谷川明夫
    八尋 洋・高野真二・沼田曜一
    山城新伍
浅草の鉄砲久一家にワラジを脱いだ女博徒の矢野竜子、通り名お竜(藤 純子)は、数年前に死んだニセお竜の娘、君子(山岸映子)を探して浅草を訪れ、鉄砲久(嵐寛寿郎)一家で君子に再会する。鉄砲久は、同じ浅草を縄張りとする鮫州政(阿部 徹)一家と対立していた。鮫州政ともめ事を起こした渡世人の青山常次郎(菅原文太)をかくまった鉄砲久は、鮫州政の謀略で刺客に殺される。そして、鉄砲久の娘婿が持っている興行権を、鮫州政一家が狙っていることを知り、悪どい鮫州政のやり口を封じるために、渡世人・青山常次郎と共に殴り込む。
加藤泰が監督した第3作「花札勝負」の後日譚殉なストーリーで、藤純子の静と動の美しさが見事にスクリーンに挽きつけられた。特にお竜が菅原文太扮する流れ者のヤクザ・青山常次郎を見送り、そっとミカンを渡す雪の今戸橋のシーンは、圧巻。藤純子は何者にも代えがたい情緒を見せた。加藤泰の演出が、すみずみまで行き届いたシリーズの最高作である。