ゆきゆきて、神軍
昭和62(1987年)、疾走プロ


製作:小林佐智子
監督・撮影:原 一男
選曲:山川 繁

出演:奥崎謙三・奥崎シズミ
   (ドキュメンタリー)

「さようならCP」「極私的エロス・恋愛1974」などを自主製作し、その衝撃的な映像で注目を集めた原一男によるドキュメンタリー。

皇居参賀の日に昭和天皇にパチンコを発射した事件をはじめとして、戦争の責任をあくまで過激な手段で追求し、国家・社会といった共同体に挑戦し続けるアナーキスト・奥崎謙三を追い続けた作品。

奥崎謙三が、第二次大戦中自ら派遣されたニューギニア戦線の部隊で起こった上官による部下射殺事件≠ニ兵隊同士の食人事件≠フ疑惑を、何人もの証言者のもとに、すさまじい執念をもって食いさがり、真相をつきとめていく記録作品。
“撮る行為”自体が平和な日常の裂け目に視線をうがって、思わぬ現実をあぶり出していく武器になることを再発見させてくれる秀作。ニューギニア当地で撮ったフィルムは当局に没収された。      ベルリン映画祭 カリガリ映画賞受賞。

彼はかつて一兵卒としてニューギニア戦線に送り込まれ、そこですさまじい飢えを経験した。
戦友たちの多くが餓死しただけでなく敵味方の戦死者の死体を食べた。彼の推測では戦友のひとりはその罪を着せられて上官の命令で銃殺されている。奥崎謙三はこの銃殺の命令を下したはずのもとの上官や戦友たちをつぎつぎに訪ねてゆく。カメラマンであり映画監督である原一男はこれに同行して奥崎謙三の執拗をきわめる追及を撮る。

ある人は会おうとしない。ある人は、いきなり訪ねて行った彼に当惑しながら真実と思われることを告白する。人肉食のことが特別に深刻な証言としてでもなく、ポロッところげ出たりする。証言をこばみそうな人の口を開かせるために、他の関係者のフリをして相手をだましたり、暴力的になったりすることも彼は平気である。
天皇の戦争責任を追及して真実を明らかにするという聖なる目的のためにはある程度のことは正義のうちだと思っているし、暴力的になるときには自分でその場から警察に電話して、どうぞ逮捕してかまいません、という調子だ。警察がこれにあまりまともに取り合おうとしなかったりするところが、ドキュメンタリーならではの予期せざるおかしみであったりする。
さいごに奥崎謙三は、彼の戦友を殺した責任者だと思われる元上官に面会を求め、代りに応対に出たその息子を撃って有罪判決を受け、刑務所に入る。

この映画は激しい賛否の議論をまきおこした。取材される側が嫌がるのを強引に押しかけて行って問いつめる。プライバシーもなにもないではないか。言えない真実だってあるのだと証言を拒否する病人の胸ぐらをとって自分の正義を押しっける。とてもついてゆけないし、ドキュメンタリーの邪道ではないか、という反発が少なくなかった。確かにそうかもしれないが、同時にこの映画は、こうでもしなければ表に出てこない重大な真実もあるということをくっきりと印象づけた。恐るべき攻撃的ドキュメンタリーである。

                      (佐藤忠男著 「日本映画300」(朝日文庫) より)